みんな大好き、チュッ!

 わざと妙なイントネーションの日本語を操っていると思われた(わざと、というのはおそらく日本人でないと理解できないような駄洒落を彼女が発していたからそう思いました)、無精な感じで髪のまだらに錆びた女性と、癖のある金髪を短めに切ってまとめていたナードな様相の外国人カップルの会話に、昨日、打ちのめされました。ちなみにそれを聞いた場所は、というと、ゆりかもめ青海駅エレベーター内で、僕もエレベーターに乗っていたんですけど、まるでお構いなしにラブい空間を演出する空間プロデューサーっぷりを披露していたその二人にノックアウト。別段僕はそういうのをあまり気にしないし、目くじら立てるつもりもないんだけど、奴らの会話ときたらあまりにあまりで…。
 連中は晩ご飯の相談をしていたようで、「新宿で焼き肉にすりゅ?」などと女性が珍妙な日本語を発したかと思えば、外国人さんは片言の日本語で「ソウダネ…ヤキニク?」なんて答える感じ。その時点でもうなんていうかしょうがねえなあ、って思ったんですけど、しかしその直後、「あ、中華があった!中華どう?」「チュウカ? イイネ、チュウカ」「中華はどうでちゅか〜(笑)」という亜空の会話が続き…更に、どうでちゅか、のその後には、女性が「チュウ」って言って、口づけであるところのチュウを…。野暮ですが一応説明すると、「中華」と「どうでちゅか?」という彼女の言葉には押韻という言霊の魔術、というより駄洒落が込められていたのであり、その上「ちゅか?」の語尾に呼応する形でチュウをするという高等戦術が用いられていたに違いないわけですが、そんな彼女の口撃に彼はどうにかしたのでしょうか、「エヘヘ…チュウカニシヨウカ(笑)」ってな具合で速攻陥落。世間にはやはり、決して「勝てない」存在があるということに魔都TOKYOの一角で気付かされました。世の中様々なカップルさんがいて、みんなそれぞれ馬鹿っぽいことはやっているわけですけど、それにしたって、あ、これ以上は人前では無理、っていうラインはあると思うんですよね…。というかあの異人さんは何やら騙されておるんじゃないかと心配です。だってほら、TOKYOはこわいとこだから…。