冬のセーター

 東京というものは、やはり恐ろしいところで、颯爽と酩酊しながら車道を、ちなみに交通量の多い甲州街道を自転車で悠々ついついと進んだ上、傍を必然的に通る自動車に、あぶねえじゃねえか、死ね、などと交通法規を超越したような悪態を吐く男性などが散見されたりして、そのような光景を見ると、あやうし規律!しかし多分このような行為はせいぜい規律を逆説的に維持するための想定内の逸脱なのではないか?でもなんにせよやっぱ迷惑!などと意味の不明なことを思ったりするわけですが、それにも増して定食屋は恐ろしいところだと思います。


 具体的に言えば、本日食べたあの悪魔、つくね定食。あいつのせいで、僕は…。そもそも、かのつくね定食の恐ろしさというのは筆舌に尽くし難く、何故なら軟骨入りのつくねの食感と卵黄およびソースが絡み付くその豊潤な味は満足度の高いもので、まったくもってご飯がごはんがすすんでしまうから恐怖ですよねというのは間違えた、それは恐ろしさではなくつくねのおいしさ…本当の恐ろしさは、つくねにかけられた、卵黄と絡み合ったソースにあります。その攻撃力、特に、腹の部分が白いセーターに対する威力たるや絶大であり、ええと、要するにソースがこぼれて染みが出来たのでマジ怖いです!このセーター、クリーニング直後だったのに。とてもしょんぼり。


 まあ染みは、もう白いセーターなんていらねえよ、冬、といった風情で、こぼれたソースに泣かないでと自分に慰めをかけつつ、あるある大事典か何かで得た知識により即席染みバスターズと化した自分の英雄的に迅速な行動のお陰で被害を最小限に食い止めることが出来たので、ありがとう、テレビ番組、おめでとう、俺、という感じではあったのですが…でもきっと再度クリーニングは必要であり、やっぱりしょんぼり感はおさまらないのであってつまるところ白いセーターは対汚れATフィールドを仕様として標準装備していただきたい。というのが僕の思うところ、願いのようなものです。でも、この日記を読んでくださるという時点で尋常じゃなく親切であり徳の高いみなさん、みなさんなどは確実にそうするのだろうなと思いますが、もうすぐ訪れるであろう聖なる鐘が響く夜には、例えばそんな切なる人類愛に基づいた願いを天(そら)へ投げかけたりして過ごしてみたいものですよね。ちなみに僕は、まだまだ卑小な存在ですし、そのような大勢を救う目的の崇高な内容の願掛けは泣く泣く辞退し、個人すなわち僕の幸せを追求する願いを投げかけようと思っていますが…というか、あれ?聖夜の星に願いを投げかけるなんて風習があったかどうかよくわかりません。これは駄目だ。なんとなくなイメージで日記を書くという愚行を犯してしまい慙愧に堪えません…。