ディスティニー・東京

 アップルのiMac G5欲しい! のは勿論やまやまであり、それさえあればもうPCライフが充実する準備はできている、という状態になるはずなのだが、それよりも。それよりも、自己資本として1000万単位で誰か俺に金くれねーかなーといったお願いマイメロディ的な他力本願ぶりに磨きをかけている今日この頃であるのだけど、まあ話は変わって、このところ、妻の様子がおかしいのである。いや、以前より、目を離すとふしぎなおどりを踊って僕のMPを減衰せしめたり、僕に高周波治療を施そうとしているのか、非人間的で奇矯な声を発したり、DEEPLOVEアユの物語、を立ち読みして涙ぐむなどの奇行が目立っていたのだが、近頃は、それに輪をかけておかしいのである。

図解「これが日記さんの妻だ!!」
※ふろく:「妻の生態メモ」……マンション買う?などとまるで中年男性が若い女性を愛情を模した金銭でもってフィッシングする際のような口調で話しかけるとよろこぶ。


 これではいけない。きっと彼女は、僕がなかなか家に帰らない、いや念のため断っておくが、仕事の具合で家に帰れないのだが……ゆえに正確に言えば帰れないのを憂い、奇行により家庭のピンチを伝えているのかもしれないのだ。だからこれではいけない、と思い、先日は妻の好きなアール・ヌーヴォー期のなにやらを揃えた催し物を観に美術館へ連れ立って行ったり、したのだが、どうも芳しくない。妻の、美術館の展示内容に対する感想メモを見る限り、日記書きの妻としては誇らしいことに、はっきり言うとそこらに転がってるサイトより文章内容の水準は高いので――というのは贔屓目や僕の盲目のなせる業かもしれないが――まだ神経や心理の中枢はやられてはおるまい、と胸を撫で下ろしはするのだが、しかし奇行の程度は増しているのだから安心は出来ないし、困ったものなのである。


 奇行を止めるには、僕が毎日早く帰ることが肝要かとは思うのだが、けれどもそれ以外にも恐らく、クリスマス、とかいう季節的なイベントが妻の変容に拍車をかけていると僕は睨んでいる。というのも彼女は、テレビでクリスマスという単語が流れるたびに、放心の表情で光源、つまり安物の、録画機能が壊れた14型のテレビデオを見つめているからで、はたして、その時画面には、浦安方面に鎮座するというウワサの伝説の魔城のシルエットと共に、なにやらネズミと思われる影が跋扈しているのだった。また恐ろしいことに、彼女はそんな悪魔城に行ってみたい、とすら言っている。金銭、時間を身を持ち崩すほど大量に供犠に捧げなくてはかの城には辿り着けないのを彼女はわかっているのかいないのか、これははなはだしい奇行と言って差し支えないだろう。だいたい、あのネズミ状のシルエットは見るだけでお金が飛んでいきそうな禍々しい光を放っている。彼の名はアルパでありオメガでありM・I・C・K・E・Yであるという。そしてあの光の、我が家の財政に壊滅的な打撃を及ぼしかねない勢いは、まるで旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火のようであった。ラーマーヤナではインドラの矢とも伝えているがね。


 さらに、テレビ画面には追い討ちをかけるように、クリスマスになんちゃらかんちゃらでどーちゃらしたらしあわせになれる、などという文言が流れるのだが、それにしたってたぶん明らかに黒魔術の一種であり、またはテンプル騎士団の暗号であろう。というか、たぶん明らかに、という言葉の使い方がおかしいのはともかく、こいつが彼女をおかしくしているに相違ない。だから、せんだっても、件の、コマーシャル…?などという害毒映像が流れた折には、僕はフランス語で罪という意味がある名の煙草に火を点けながら、えいやあとテレビのチャンネルを替えて、ハロモニを鑑賞したのであった。気がつけば、もう年の瀬である。