Lavorare Stanca

 きらびやかな外界から隔絶された暗所に禁固されること幾週間。見張り塔からずっと監視されている。メールや電話といったテクノロジーツール、書簡や小言あるいは無言の批判といったアナログ感溢れるある意味で人の温もりに包まれていると言えなくもない古よりの意思伝達方法、などの様々な諸形式を採り襲いかかっていた、私を苛んでいた妖怪こともったいないおばけこと労働さんが今日やっと帰っていったのでこれで日記が書けます…。この日記は、まるで共依存にどっぷり落ち込んだ人々、たとえばアル中DV夫(酒出駄目蔵31歳)の24時間監視体勢に怯える妻(酒出耐子29歳)がしたためる日記…夫がいつも「生き返る魔法の水」だと称して飲んだくれている液体・その実体は要するに酒を買いに出かけたそのわずかな隙にインターネットに接続し日記を…もはやそれが外界とわたしを繋ぐ唯一の蜘蛛の糸なのだわ…書くような趣の、さながら耐子29歳が僕に憑依したかのような心持ちで綴る日記です。はやく書かないと、月曜には、駄目蔵31歳のように暴威を振るう労働さんがまた僕に追い付いてしまう…その前に僕は日記をかかなくてはならない…。

 とかいう冗談はともかく、いやあながち冗談でもないのですが、先ほど昼食を食べた店で、Belle & Sebastianの懐かしい曲がかかってたからうわあいいなあと思って、そして最近ぜんぜんCD買ってないなあと気付いて飛び込んだブックオフにて久しぶりにCDをジャケ買いならぬタイトル買いしました。のでなんとなく気分はもう戦争っていうか間違えた、ハッピーです。
 買ったうちのひとつは、南イタリアのミュージシャン、ダニエレ・セペという人のアルバムで、タイトルが『限界労働』。なんつうか邦題が素敵すぎるし、内容の方もこれは正直当たりで、ブラス、スカ、ジャズ、イタリアの民族音楽、果ては人力テクノっぽい要素なんかを組み合わせた雑食性の高いもの。ゴラン・ブレゴヴィッチが改編した旧ユーゴの曲とか、中世ヨーロッパの楽曲とかカバーしてるみたいだぜ! あと、「労働と生産」とか「限界労働」「緩慢さとともの労働」なんていう曲のタイトル(すてき)から感じられるような、労働者階級視点の政治色というかプロパガンダ的空気は確かに打ち出しているのかもしれないけど(言葉はわからないけどジャケとかブックレットにそういう雰囲気が漂っている気がする)、そっちにうざったく寄りすぎることがない感じのバランスを携えているように思います。というのも、音がおもしろいし、教条的みたいな感じじゃなくてちゃんと身体に響くダンスミュージックになってるからかな、なんて思ったりしました。あ、でも、そういう聴き手にすんなり入ってくるっていうのは一番強いプロパガンダなのかもしれないですね。あのゲッベルスさんもそんなことを言ってたような気がします。

 もういっこ買ったのは、GUACOという、はっきしゆって知識ないのでよく知らないんだけどベネズエラのグループ。ラテンミュージックって僕は日常的にほとんど聴かないジャンルなんですけど、今日はなんだかそういう気分だったので買ってます。夏だし。

 あと買ったのは漫画で、かわかみじゅんこ『ネオンテトラ』。この人の漫画はちょっと微妙に古臭い感じのでもかわいい絵柄とか、会話の妙なテンションとか間の取り方とか変な言い回しなんかが好きです。なんか、読んでるとふしぎなことに「やってやるぜ」的な気分になるところとか、そういうのも含めてかわいい。っていうか、探せばいろいろ買えるのでブックオフって素晴らしい場所なんじゃなかろうか。なんだかここ最近、ものを買ってる時に生きてるって感じます…。そんな自分はきっと資本主義さんにくびったけだったりするんでしょうけど、でも、アイツは嫌いなんだ…ほんとはね…。

 と、このように、社会さん≒労働さん≒資本主義さんといった魅惑的で破滅的でヴィダルサスーン的なクオリティを誇る小悪魔に対する複雑な心境なんかを綾川さん28歳が一週間に一度くらい語ったりするこの日記サイトはドリフトウッドといいます。日記が書けてしあわせです。次の更新もたぶん来週の土曜日あたりになると思われるのが残念ですが*1よろしくお願いいたします。

*1:ソニンのライブ感想文はまだ書けていません…。