深夜タクシーと日本の社長/Yの悲劇

 まったくタクシーというものは、いつだって、僕らを目的地へ送り届けるその替わりに、僕らに絶望も届けてくれるお茶目さんだとおもうんですよね。タクシー運転手やバス運転手など、いわゆるドライバーと呼ばれる人々の中には、気配りなどを身上とする人と、その真逆に恐ろしく態度の悪い…もとい…とてもワイルドだったりクールだったりする方と、両極が目立つように思えますが、まあそれは彼らの魂魄が激務の末カオスな悪のヴァイヴスでネガティブな感じに引き寄せられているからに相違ないし、心のバランスがちょっとアレなことになってるのもやむなし、って感じです。
 暗黒波動の顕著な例として、ドライバー業界に関して言えば、たとえば、さ○わ急便のCMに出てくるドライバーの爛々と輝く目やデータとして示される離職率の高さなどは、何か重要なことを僕らに示唆しているのではないかとも思えます。恐らく佐川急便社内では、って、あ、社名出しちゃった。まあいいや、体育会系マッチョイズムとスピリチュアルな目の輝きの親和性が高く、マッチョとスピリチュアルの融合現象が起こっていると類推されるのですが、それらはさながら核融合のように各社員の身体内でスパークし、高すぎるエネルギーは個体を殺しているということなのかもしれません。

 このように僕は、ドライバー業界観察に余念が無いですので、先日も、「このタクシーは笑顔で走るタクシーですヨ」的なやさしさアピールに余念が無いファンシーステッカーを後部に付けたタクシーが、あと数十センチで車体同士がKISSっちゃうような、マーク外す飛込みで車線サッと割り込むのを発見したりしてます。ていうかいつもそんなんばっかです。KISSがしたいが人間の本能とはいえ、望まれざるKISSは大惨事を起こすんですよ!ってな感じで、原チャリで後ろのほうを走っている僕は一瞬、これマジで事故発生すんじゃないかなと思った、などということも結構あります。そんな危険極まりない東京砂漠なんですが、そのようにタクシーは、その外殻が運転速度とあいまってブチ当たったら死ぬよライクな凶器となっている上に、近頃、実は、その内部ですら鋼鉄の処女めいた労働者暗殺マッシーンとも化しているようなのです。

 というのも最近、Yという人材採用コンサルティング会社の広告冊子が、タクシー内に目立つのですが、その冊子は、無能な社員に対する経営者の怒りと、それに対するY社のアドバイスで構成されており…それは…

●広告冊子内容
「週に2回以上社員を怒鳴りつける経営者の皆様へ」

  • 社長の言い分:「同じことを何度も言わせるな!もっと頭を使え!」

→Y社のアドバイス:「それは、言うだけ無駄です。極端な話、バカな人に『賢くなれ』と言ったところで、そんなことは不可能です」

  • 社長の言い分:「ダラダラするな!やる気を見せろ!」

→Y社のアドバイス:「残念、いくら尻を叩いても、本人が決めた目標を、キャパシティを、他人がムリヤリ上げることは出来ません」

  • 社長の言い分:「お客様の気持ちになって考えろ!」

→Y社のアドバイス:「残念ですが、それは酷な話です。コミュニケーション能力の低い人に、相手の気持ちは読めません」

●広告冊子におけるY社の結論・要約
育たない人材は、どれだけ時間をかけたところで育ちません。その人材が『できる』かどうかは、採用段階で100%決まっているのです。当社にご連絡ください。

といったもの。育成とか努力とかいう言葉に根底からケンカ売ってる感じで、すばらしくてナイスチョイスな瞬間が垣間見えます。

 これほど、ウソ・大げさ・紛らわしいに抵触するのではないかと感じ、思わず、「JAROってなんJARO?」という言葉が脳裏に浮かぶ広告もなかなか珍しいですが、もっとおもしろいのは、この間乗ったタクシーではこの広告がすべて何者か――経営者さんたちじゃないとよいのですが――によって持ち去られ、なくなっていたことです!ということはニーズあるのかなあ。そんなわけでみなさん、自分の勤める会社の経営者がこの広告を持って帰ってたら大笑いしましょうね!僕らに残されたのは笑いだけ!