ここは、昔書いたやつを載せてく場所にします。

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それ行け!青春短編『青春のSUNRISE』


 ゲーセン「ENERGY」。ユウキとケンはその店の奥で、煙草をふかしながら、ぼんやりしていた。昼間からゲーセンで過ごし、今はもう夕方。もし、誰かが、無気力な若者を題材に絵に描きたいのなら、今のユウキとケンをモデルにするべきだろう。二人とも、すでに金を使い切ってしまって、後はもう、することがない。ユウキとケンはすでに、モニターに映る、格闘ゲームのキャラを眺めているだけだ。残り少ない煙草を吸い尽くすのも時間の問題だった。
「ゲーセンで時間つぶすのもだんだん辛くなってきたな…」
「ユウキよぉ、ここにいてもしかたねーから帰ぇるべ?」
「タァコ! 俺ぁあの家にぁ帰りたくねーんだよ。姉ちゃんうるせーしヨ? お前ぇももう少しつきあえよ」
「まじかよー…こんなとこに居てもだりぃべ?」


 と、その時である。筐体の向こう側、さらに向こうだろうか、そこから、数人のはしゃぎ声が聞こえてきた。


「そろそろ“帰る”べ!」
「おー、最近“和田”がここら見回りに来んだよな。あのタコに見つかると“うるせー”べ。下手すりゃ元E組の“ユウキ”みてーに“退学”喰らうしよ?」
「ばっか、“ゲーセン”ぐらいでそりゃねーよ」
「まあそーだっけよー、っつうか、ユウキってよ、アイツむかつくべ?」
「キャバクラ通いまくって退学とかいって、マジ馬鹿じゃねー!?」
「調子乗ってんべ?アイツよー。 見つけたら俺が“ボコ”りくれてやんからよ」
 そんな声が聞こえてくる。どうやら、彼らは、ユウキとケンが昔、通っていた学校の同級生のようだった。連中は、店の奥にユウキとケンがいることに気付いてないようだ。言いたい放題である。おいおい、まずいべ、ユウキ、キレやしねーだろうな…?そう思って、ケンは心配そうにユウキを見た。しかし、ユウキはどこ吹く風であった。「まあ、言わせときゃいいべ? 関係ねーよ。あんなタコとやりあってもしゃーねーべ」、そう言ってユウキは、またぼんやりとモニターを見つめるだけだった。ケンは、何事も起こらないといいと思っていたので、少しほっとした。


 だが、
「っつうか、E組のソニンいんべ? あいつユウキと付き合ってんだべ?」
 と声が響いたので、ケンは、はっとして、ユウキを見た。それまで、何を言われても表情を変えなかったユウキの顔が、わずかに歪んだ。
「マジで!? ユウキのヤローもしか、あんな“ブス”と付き合ってんかよ!? 笑えるな?それってぇ!?」
「なあ、ソニンの“腕”見たトキあっかよ? “ハム”だべ?ありゃ!」
「言えてんな!? ぎゃはははは!」


 ――声が、遠くなってゆく。ユウキの肩が小刻みに震えている。彼らは「ENERGY」から出て行くようだ。ユウキは、意を決して、立ち上がった。
「行くぜ…“ケン”…“カッコつけ”によ…!」
「な…おい、ユウキ…!やめよーぜ!? 相手ぁ“6人”もいんべ!? 俺らだけじゃあ…さっき、“あんなタコとはやんねー”って言ったべが!?」
「確かにあいつらの言う通り俺ぁ、自分でもしょうもねー馬鹿だと思うぜ…。けどよォ!“自分”の“大切なモン”“笑”われてヘラヘラしてらんねーんだよ……!!」
「ちょ…ユウキ!?」


 ユウキは、彼らの前に、姿を現した。


「待てよ、コラ…!」
「あ!? てめー…! “ユウキ”…!?」
「オウ…さっきソニンのこと笑いやがった奴ぁ誰よ…!? 俺が“超ボコ”にしてやんからよぉ…!!」
「何言ってんのコイツ…バカじゃねーの!! 女ぁ笑われて“ムカ”ついたんかよ?ずいぶんカッコいーことすんじゃねーか…? やんのかよ、あ!? こっちぁ“6人”だぞ!?」
「“関係”ねー!!」

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「遅くなっちゃったなぁ…」
 ソニンは、自分の住むマンションへと急いでいた。すでに辺りは暗く、薄気味悪い雰囲気に変わっていた。いつも通学に使っている道とはいえ、あまり愉快なものではない。しばらく歩くと、公園にさしかかる。この公園も、夜はうっそうと茂った木々が気味悪く、ソニンはそれが嫌いだった。
 はやくこんなとこ抜けたいな、そう思いながら歩いていると、公園の中に、人影が見えた。見覚えのあるシルエット。それを、ソニンが忘れているはずもなかった。
「ユウキ…?」
「……おー、ソニンじゃねーか。今、部活の帰りか? 相変わらず筋肉つけてんのかよ!? まーおめーもそんなことしてねーで、ちったあ可愛らしくすりゃー今頃少しはマシになってたかもなー」
「うっさいな! …アンタ、久々に会ったっていうのにそんなことわざわざ言うわけ?」
 ソニンはユウキに近付き、平手のひとつでもお見舞いしてやろうかと、手を振り上げた。だが、その手はすぐに降ろされる。ユウキの顔が、ひどく腫れているのが見えたからだ。
「ちょっと…! ユウキどーしたの!?」
「…この辺、通りかかったからよ。ソニン元気してっかと思って」
「そんなんじゃなくて! 怪我!! 顔が…」
「あ!? 転んだんだよ、たいしたこっちゃねーって」
「ばか!転んでそんななるわけないでしょう!? アンタ、またケンカしたんでしょ! ちょっと見てあげるから、こっち向きなさいよ!!」
「いててててて! 何すんだよこの馬鹿力! ケンカなんかしてねーよ! 痛え! ったくよ、だからおめーは“ハム”だって言われんだよ!」
「なんですって!!」
「バーカ! じゃあな!!」
「ユウキ!!」


 走り去るユウキの後ろ姿を見て、ソニンは、ばか、と呟いた。後ろで、ソニンがまだ見ているかもしれない、そう思って、ユウキは足を速めた。