Dear Diary
近頃会社にいる時は五里霧中、自分がしていることにさほどの実感が無く、仕事はもちろんするものの、ふわふわとした感じが離れない。時折不穏な声で鳴きリサイタルを始めるサーバー、人の多さとパソコンの多さが上げるフロアの温度、目の前のやらなきゃいけない事が短期的には不可避の−−−長期的な展望に立てば回避可能なのだろうが−−−理由でゆがむ、鳴る電話、そして自分の心の弱さ、そういったものがべっとりと吸い込む息の中に混じり合って僕の中がぐるぐるする。
ぐるぐるした気分を抱えたまま、駅から家まで歩いた。夜の黒の上に、霧の白が乗っかっていた。TRAVISのCDを聴きながら街灯に照らされ黒光る道を踏み踏み、水気を含んだ空気が鼻のあたりをおずおずと撫でるのを感じて、足下も覚束ない。傾斜のきつい坂をたいして踏みしめずに歩き、耳にはメロディが入ってきて、人通りのなく脇に木の生い茂った道を見るとなんだか海の中のようだ。霧の粒のひとつひとつがはっきりと見えるような気がして、白い小さな点が今まで何度か見たことがあるクリオネみたいに揺れている風に見えた。あいつらは餌を食べる時、実に化け物じみて口を開けることを思い出しつつ先ほどから飲みたいわけでもないのに飲んでいる煙草の煙を吐き出す。喉に泥がひっかかっている気にもなって不快だった。しかしその泥や海や僕に見えているものは、大きくて儚げな音と力の入らない足取りのせいか遠くにあるように思えて、ふわふわとした感じはさらに強まった。家に着きそうな頃には、自分がどのように歩いてここまで来たのかあまり思い出せなくなっていた。
家に帰ると独りだった。今日は久々に独りで眠る。だからまだふわふわしているのかもしれない。