スーパー!?テンションズ

 土曜日。例のアレが出ているという。やれドラゴンだ、それクエストだと皆騒々しくてかなわん。ネットで周りを見渡しても、はしゃいじゃって良いのかな!とばかりにドラクエ8に迎撃体制を取り、意気揚々と前線に飛び出しドラクエ日記を書いている知人・友人たちの姿が散見されていた。やりきれん。君たちはそれでいいのか。僕は俺はドラクエを買う予定なんぞなく、まあ別にそれはそれでいいんだけど、こうも騒がれるとなんともしょんぼりする部分がしょうじきある。え?マジ?君はドラクエやらないの?みんなやってるよ?(苦笑)、という風に言われてる気分というか、ドラクエを持っていない自分は世界から隔絶されているのではないか?それは困るので僕もドラクエ欲しい、なんてな感じの小学生マインドの勃興を許してしまいかねないのである。僕は大人だからそんなはしたない気持ちになってはいけない…。だもので、そういった心のダークマター領域に抵抗するため、僕は、「ドラクエDQDQNDQである。またドラクエ日記とはすなわちDQNikkiと書くのであるから、そんなものを書く奴は間違いなくDQN…俺はそんな奴らとは違う…差異がある…違う…」といった言葉を真言よろしく唱えてドラクエを買わない自己を肯定していたのであった。ついでに言えば、テンション? スキルポイント? ハッ。っていうこのスタンス。あなたたちは3Dマップを見てはしゃいでるみたいですけど(苦笑)、私はちょっと遠慮しておく、だってもう社会人だし。ま、あなたたちを横目で見ながらエヴァンゲリオン2でも今さらやっておきますよ、気怠く。っていうこのスタンス、つまりいまだに蹴りたい背中改変を書いて喜んでしまうこのスタンスでもって世の中に理由なき反抗を試みることもした。僕は心の平穏を得た。


 まあ実際、ドラクエなんぞやらんでも快適に過ごせるものである。そんなわけでうららかな昼下がり、僕は社用とも言える用事をサクサクと済ましつつ、穏やかな気分で京王線に乗り、差し込む日差しの中、先日購入した本などを読みながら、文化的なひと時を過ごしたのだった。ああ、This perfect day、この完璧な一日よ。
 晴れやかな心地で家に戻ってきて、同居人に声をかけた。やあハニー、調子はどうだい?まったく世の中はドラゴンだクエストだっていささかうるさいね。
「野菜を買ってきたの」
「あ、野菜、もう切れてたっけ」
「うん」
 と答える同居人の目が泳ぐ。おや、これは。人間、隠し事があると目がスイミーよろしく泳ぐという…。これは怪しい。果たして机の上を見ると、もやしパックの袋の下に、ドラゴンだのクエストだのの文言が印刷されているパッケージが見えた。
「えっと、これは?」
「だから、野菜」
「違うよね?その下のは?」
「うん…野菜を買いに行ったんだけど、なんでかなあ」
 なんということだろう、僕の至近まで奴らの魔手は伸びていた。事情を詳しく聞いてみても、「野菜を買いに行ったら柔らかい光に包まれて気がつけば手にしていた」というような趣の、まるでエイリアンアブダクションに遭遇した人レベルの言葉しか返さず要領を得ない。これはもしか無駄遣いではないのか?と同居人に忠言を投げかけてみても、異論、反論、アブダクションの三連コンボを発動されて埒があかない…。ブルータス、お前もか!まったく嘆かわしい限りだ。こうして、僕の周りはみな、ドラゴンをクエストするゲームの妖力に篭絡され、陥落したというわけだった。まったく、安易に世情に流され、こんなゲームをやる奴の気が知れない…。お前らそれでいいのか…。ほんとに…。


 というわけで、ポートなんたらとかいう港町まで進めました。いや、ごめんなさい。ドラクエおもしろいですね…。すみません。なんてな具合の予定調和な着地点を示すのがこの日記の特徴です。This is 運命。わかるよね?