異邦人
今日、GOKIが出た。もしかすると昨日かもしれないが、私にはわからない。手にしたゴキジェットから無言のメッセージをもらった。ヤツハトブオソレアリ。メッサツセヨ。これは非常にわかりやすい。恐らく昨日だったのだろう。家屋を蹂躙する黒騎士、黒茶色の憎いヤツ、すなわちGOKI、は、するするとした動きで、白く、しかし完全な白さではなくいくらか薄埃か煙草の脂か何かで汚れた壁紙を貼り付けてある壁を、見事なコントラストを描きながらかさかさ登っていた。私は、もし彼が飛来しても直撃を避けられるよう妻を風呂場に避難させ、私自身はというと飛来を警戒しながらも彼に近づき、彼にとっての毒を噴霧した。あの人類の敵、黒色兵器、黒い不快機械は霧を感じ取るや否や壁を器用にかさかさかさかさかさかさ動き回り、寝具の間の暗がりへと消えていった。生きているか死んでいるかはわからない………っていうか、ちょうマジアカシックレコードやばいくらいGOKIって気持ち悪いですよね!こわい!やだ!いや、僕だってひとときはね、アイツとも仲良くやってけるかな、って、思った時期もあった。ありましたよ。それは認める。たとえば触覚とかちょこちょこ動かしやがってこいつ実は意外とかわいいとこあんじゃないのって思おうとしたこともあった。まあ友達?は無理にしても、なんだ、顔合わせれば互いに挨拶するくらいの距離感ならいいんじゃねえのって考えようとしたこともあった。でもね、ほら、前言を撤回するようですが、なんていうか、実際目にしちゃうとやっぱ無理、っていうか、彼、少しでも甘やかすと調子に乗るところがあるからね…そこがちょっと…っていうかだいぶマジ無理。そもそもアイツなんでこっちに向かって飛んできたりするのかわかんない。ベタベタしやがってさー、こっちが嫌ってるの気付けって感じ?
…というわけで、要するに、僕と黒いアイツとの間に種族を超えた恋は生まれなかった。ジハードは続いている。何せヤツはまだ生きているかもしれない。昨日、ゴキジェットを噴霧した時点で、僕としては、ハッハー!やってやったぜファッキン!と快哉を挙げる勢いで、でも夜中だったから実際には声を出さず、達成感にひととき浸った。だが、聡明な僕は悟っている。「やったか?」とか思ったり実際に口に出した時点で、陽気に勝利を確信した時には、実は相手ったらマジ元気、あらやだノーダメージ、逆にパワーアップして襲い掛かってきて、こちらは屠られ無残にDEATHったりして物語の賑やかし役にしかならなかったりすることが多い、ということを。そしてガンダムやドラゴンボールといった著名な歴史的文献を参照する限りそれはかなり真実らしいということを。ジハードは続いている。今日も僕は、部屋の中を逃げまわり…もとい、戦略的転進策を採りながらアイツと戦うことになるのかもしれない。がんばるぞ。いやがんばらない。っていうか誰か代わって…。彼を忘れさせて…。