ニューテクノロジー

 詳細は言う気もないハード・デイズの中にあっても、先月ごろより私の中でむくりと鎌首をもたげ、日が経つにつれてムクムクと綿に血液が充満するような勢いで盛り上がってきたサイトのリニューアル欲はもはや抑え難く、Webデザインの雑誌なんかを私に購入させるほどに膨れ上がっていた。それを聞いて中には、え?君は今まで買ってなかったの?君はそういう仕事してるんじゃなかったの?と思う御仁ももしかしたらおられるかもわからんが、今まで「つうか俺デザイナーじゃないし」で済ませてきたのでそのような本は買っていなかったのだった。休日は仕事しない主義、アメリカ人のように合理的を標榜する私としては仕事に追われるようで無意識のうちに避けていたのかもしれない。いずれにせよ、けっきょく休日も時には仕事しているし平日は仕事には追われているし、アメリカ人のような合理性を持てない私はむしろさらに追われてみるのも一興で、サイトのリニューアルはちょっとした勉強という意味合いもある。これから、徐々にまたサイトに手を加えてゆく予定です。


 もっと、頭を悩ませている問題がある。


 このところ私は、人間とかいう肉の塊*1に出会うたび、君は体積を増したのではないかと声をかけられ、笑われ、疑われているのである。彼らの口ぶりは、私の方が醜い肉の塊だと言わんばかりのようにも思えるし、何より彼らは、必ず「幸せ太り?」というよくわからない言葉を投げかけ笑いながら話し掛けてくるので、これはもう、私は笑い者である、あるいは、私のことを蔑み貶め圧殺する十三人委員会の符牒が「幸せ太り」という文言である、などの可能性しか考えられない。だいたい、幸せが個体を太らせるというその意味が分からない。真夜中なので妻はすでに寝ておりその横でひとり食べるご飯が幸せというのだろうか…。いやそもそも帰れば妻がいるとかご飯があるとかの理由でそれはそれで少なからず幸せではあるけれど…しかしもっとこう…早く帰…恥辱は、私の心の平穏を乱している。あと遅く帰るのは、仕事が出来ない証拠なんだと思うのでくやしい。


 よって私は、せめて「ダイエット」というものをクールに決めたい、愛されボディを目指したい。のだが、貪婪とした目のセレビッチが表紙を飾るぎらぎらしたつくりの雑誌を魂の抜けた目でぼんやり眺め、まだ見ぬハリウッドのナイトパーティや海運王の息子などを夢想するアイダホ出身のコーヒーショップウェイトレス・ジェーンさん(21)のような、あらゆる意味でゆるそうな意気込みでもって愛され痩身を考えていたそんな私も、先日会社の人に体積を増したことを疑われ笑われた時にはさすがにびっくりしてコンビニに走った。ダイエットに効く水と触れ込みのコントレックスとストレスに効くというチョコレートをうっかり一緒に買ってしまった。そして実際には水もチョコも、何も効かなかった。私はただ、健康的にやせることと、心の平穏を同時に目指しただけなのに…。まあカロリーだけはしっかりと得たようなので、まったく吐き気がするほどロマンチックなんだけど、勘弁はしてほしい。

*1:人間全般に対する嫌悪感や倦怠感を醸し出すためのテクニカルな記述